2010/03/29

日記「フィギュアにおける眼福」.

「アイススレッジホッケー決勝」「ボンバーマン」「久々のクレイ焼き物」

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■10/03/20(土) □ アイススレッジホッケー決勝
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 【スレッジホッケー決勝】カナダは3位決定戦で負けたらしい。となると現在最強は明らかにグループリーグで日本を粉砕し、準決勝で3位フィンランドを下した米国である。さあ決勝。

 【P1終了】うーん、ゴール前の団子から押し込まれた失点はやや不運で仕方がないが(サッカーなら団子になれば危険を避けるために笛が鳴るが、基準が違うのだろう)、日本の攻撃の組み立てが拙い。パックを奪うのとハーフウェイまでは準決勝と同様にプレイできており、先制した米が下がってるせいもあってポゼッションは高いのに、前に運ぶ段階で簡単なパスミスが出てシュートに持っていけないのがもどかしい。そして米のFWが恐ろしく速く、奴に渡るたびにうわー止めろーと萌と大声を上げ盛り上がっております。楽しい。

 【P2終了】米はゴール前のバイタルエリアをブロックでしっかりと埋めて日本の攻撃を潰し、とんでもない能力のFWを走らせカウンターで攻めるというクレバーなゲームを完璧に展開し、まったく付け入る隙がない。日本のポゼッションは高いものの、持たされている感が強い。しかしまあ持てないよりは持たされている方がまだマシなので、とにかくこのまま諦めず根気よく攻めてシュートに結びつけないと。


決勝後、萌が日本の親戚へ書いた葉書。
「ドゥーム」とは、「どよーん」と
した感情を表す音。
 【試合終了】まるでサッカー代表と同じくハードワーキングな組織と縦への強さを武器にした非の打ち所のない米チームが(スレッジホッケーは通常ホッケーよりもお国柄が出て面白い)、先制点を取り残り時間を完璧にプレイし、隙を見せてはくれなかった。しかし米が追加点を取りにきたのを耐えに耐え、足(腕か)が止まった米をあと一歩まで追い詰めたのだから素晴らしい。「(決勝の残り2分を切ったあの時点のあの程度のファウルでパワープレイを取るなんて)これは酷だ」とカナダアナウンサーもつぶやいた最後のファウルまでは、日本も本当によくやったと思う。攻守に獅子奮迅の遠藤は、「こいつは本当に信じられないアスリートだ!」と絶賛されていた。パワープレイで2点目が押し込まれ力尽きたときには、萌はMの肩で少し泣いていた。スポーツの喜びと悲しさを思い知っている9歳の春です。

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 しかしアイススレッジホッケーの面白さを無知な大衆である俺に教えてくれ、ワンサイドゲームになるかもという下馬評と心配を覆し存分に見ごたえのあるファイナルをやってくれた日本チームには感謝したい。北京オリンピック女子サッカー以来の興奮を味わえた、いい試合でした。

 気がつけば日本は知らぬ間にスキーで金も取っていて、メダル11個で6位と素晴らしい成績になっていた。通常オリンピックでも自国有望種目以外は国がまったく力を入れていないという韓国(1個)・中国(0個)とは、こうして草の根で差がつくんだな。日本のスポーツは民本的だ。

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■10/03/25(木) □ ボンバーマン
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 WLが来る。天気が悪いのでボンバーマンをやらせた。古いゲームなので彼は半信半疑な感じで始めたが、数分でやることがわかると狙い通りガッチリはまる。しかしボンバーマンはクイックシンキングがキモなゲームで、モンスターが迫り逃げ道が限られているみたいな複数のファクターを同時に判断するような場面になると、子供は思考停止してすぐにやられてしまう。

 そこでの脳の使い方のスイッチが入らずバトルで負け続け、落ち込み始めたWLが気の毒なので萌に目配せすると、萌は「じゃあチームでモンスターと戦おう」と別のモードにしてくれた。これで2人で協力して面を進めボス敵を倒し、「Yes、俺たちはいいチームだぜ」とWLが超盛り上がる。よしよし。やっぱガールズよりもWLらボーイズの方が単純でよい。

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 【フィギュア世界選手権・男子】高橋が競技史上初のクアドフリップというジャンプを跳んで、カナダ解説が「オーマイゴ! 初めて見たよ! 両足着地だしクリーンじゃなかったが、しかしクールだ!」と興奮する。オリンピックほどのパッションとコンディションがないのは明らかな高橋だが、格の違う勝利であった。ブライアン・ジュベールという人はルックスと4回転で人気があるらしいが、カンフー映画に出てくる白人スターがキレがなくてブルース・リーやジャッキー・チェンの引き立て役にしかなれないように、今日ここでは高橋の敵ではなかったのである。

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■10/03/26(金) □ 久々のクレイ焼き物
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 春休み初日、萌は急にクレイ(粘土焼き物)をやりたいという。今読んでるファンタジー本に出てくるライティング(書き物をする)ドラゴンを作りたいのだという。


ライティングドラゴン。
ノートとペンを持ってます。
 で完成がこれです。萌がこれまで作った中で最もトータルデザインに優れたものができたので、焼き中に形が崩れないようアルミ箔で前後左右をサポートしてオーブンに投入。そしていつもより低温で時間をかけ、まめにチェックしながら細心の注意を払って焼き完成。


念願のロボット兵
 そして俺は1年前にボディを作ったまま放ってあったロボット兵に腕と顔をつけて完成させた。これが実にいいデキになり、萌と抱き合って喜んでしまいました。何歳になっても細工物は面白い。萌がこの楽しみを思い出してくれてよかった。

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 【フィギュア女子SP】浅田真央さんはフィジカルレベル的にオリンピックより落ちており(やせた?)、ジャンプの切れにそのへんの影響が感じられるが、しかしその分と言っていいのかどうか肩の力が抜け後半のステップパートは実によかった。

 カナダのTV解説陣はこの浅田選手のプログラムを、「僕らがシーズン当初これがよくないと言っていたのを申し訳なく思う、見るたびに好きになっていくよ」「この音楽に圧倒されずついにモノにしてしまったわよね」と言っていたが、俺もオリンピック時よりずっとこの振り付けがいいなと感じる。スピードと切れはピークになくても、綱渡り的なテンションが落ちている分柔らかみがうまく表現されている。このSPはキム選手のうっふん007より絶対にいいなと改めて思った。むろんジャッジがつける点は違うと誰もが覚悟しているが。

 大きなミスはまったくなく会場も存分に湧いていたが、しかしトリプルアクセルで回転不足が取られ非常に低いスコアに終わる。カナダのTV解説がスローで見ても気づかないほどのミスなのに、回転不足だとマイナス5とかの爆落ちになるのだそうで、これがフィギュアファンのブログにさんざ出てきた浅田選手の大差負けパターンだ。げんなり。

 続く長洲未来選手がまたも溌剌とした演技を決め、浅田選手を抜いてしまう。頂点を争わなかった分長洲選手のほうがバンクーバーでのダメージが少ないようで、絶品のスピンをはじめ持ち味の切れが随所に出ていたが、しかしスピン以外は浅田選手をどこかで上回ったとも思えないのにいきなり逆転とは。浅田選手のトリプルアクセル減点(結局-5.8点とのこと; 不足というか実は回りすぎらしい)だけでひっくり返ってしまったとしか考えようがない。

 まったくくだらん減点制度だ......と思っているとキム選手が驚きのミス連発。スピンでつまづき、単なる足上げ滑走でバランスを崩すなど、これは試合放棄するのではないかと思うようなヨタヨタになってしまい、フィニッシュして観客に挨拶をする前に両手を広げフラストレーションを示すなど態度も悪く(あれは相撲なら戒告モノだろう)、なんと7位。あらら。オリンピック後にもう一勝負とは、かくも難しいことなのだ。こんな状態で勝った高橋はえらいし、回転不足などという些末ごと以外は完璧に観客を楽しませた浅田選手もアスリートの鏡だな。

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■10/03/27(土) □ フィギュアにおける眼福
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◆フィギュア世界選手権・女子フリー
【安藤美姫】オリンピック時は難解なつまらんプログラムだと思ったが、今日はリラックスしていたのか途中の休止ポーズではっとするほど美しい笑顔が見られ、そこからの躍動には胸が踊った。こんなに魅力がある人だったのかと驚いて巻き戻し、後半を見直してしまった。オリンピックだけのにわかファン(俺)には本当のところはわからないものだの122ポイント。

【キム・ユナ】昨日のあの状態から持ち直すのは不可能かと思ったが、途中の転倒まではさすがと唸るしかない演技。オリンピック時より1つ1つの技の鮮やかさが明らかに落ちているが、こんな状態でここまでできるのだから五輪王者はまことに伊達ではないなと逆に感嘆させられた。

 ―――がしかしそれと勝負は別もので、130ポイントというのはなんなのか。試合にコンディションをちゃんと上げてこず大きなミスを2つした選手にこんな高得点をつけては、他の選手に非礼極まりないではないか。しかもその非礼スコアを見た本人の態度まで「Not bad (なんだ、悪くないじゃない)」と、まことに高飛車女王だったのである(嘆息)。

【浅田真央】切れがない分五輪よりかえってよかったSPよりもフィジカルの不足が目立つが、明らかなミスはなく演技終了。俺はやはりこの「鐘」のどこにも良さを見いだせないが、とにかく「SP・FSともクリーンに決める」という彼女のささやかな願いが叶い、納得のすっきりした表情でシーズンを終えられてよかった。このプログラムに否定的なカナダ解説者も彼女が最後のスピンに入ると、「....これは....多分今年私が見たなかでベストだわ」と押し出されるようにつぶやく。それだけの説得力があった。

 しかしスコアは129ポイント。明確なミスがあった自己のオリンピック時に及ばず、なんと転んだキム選手にも負けている。浅田選手の顔からは何の感情も読み取れない。能面のようなあの無表情をどう受け取ったらいいのだろう。キム選手の高飛車女王レスポンスと浅田選手のこの表情を、ジャッジはきちんと胸に刻んでほしい。

【長洲未来】前半だけでジャンプのミスが小中1回ずつあり、後半は疲れてへろへろになり105、7位にまで転落。酷だが勝負は致し方なし。というわけで結局キム選手が2位になってしまった。浅田選手とのポイント差は1詰まって7。試合放棄に近いSPに加えFSで2つの大ミスをしても浅田選手以外の選手は彼女に勝てないというのは、いくらなんでもなんなのだろう。

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 浅田選手の「鐘」はつまらない。曲や振り付けが凡庸で印象に残らない人は他にも多いが、「鐘」は選手の素の魅力を生かさない度合いで、今日放送があった全選手のプログラム中もっとも大きく才能をスポイルするものではないかと思う。

 大会を通じいろんな選手のさまざまな瞬間が記憶に残る。たとえばレピスト選手の冒頭のスローからエッジを効かせた急発進加速→高速3x3ジャンプは浅田3A2Tより美しいと思うし、彼女や(はるかに格下の)ファヌフ選手のまったりとした動きから急転体がひるがえるような様には、なんともいえぬ味わいを感じる。安藤選手の緩急と歓喜の表現もよかった。そういう女性らしい柔らかみを持つ美しさを徹底的に練り頂点を極めたのがすなわち、キム選手なわけである。浅田ファンはストイックなのかそれを媚だと嫌うようだが、「うっふん」には無論ゲンナリするけれど(今回SPのうっふんはまことに空虚だった)、女性スケーターの動作から溢れ出る優美さは自然な眼福だろう。浅田「鐘」はその眼福をなぜか排除し、何かとてつもないものへと突き進む。

 前半はカナダ解説者も指摘した通りただジャンプのためにリンクを往復し、後半は何事かに取り乱した様子で腕を振り回しステップを踏みぐるぐると回る。あのビンタと激情演技で何かを表現したいのはわかるが、俺はそれがなんなのかに興味が湧かないし、それはその演技が美しいとも、それが表そうとする何事かがきれいだろうとも思わないからである。カナダ解説者は安藤選手のSP時に、「日本女子選手はリンクの外では明るくラブリイな女の子なのに、氷上ではこういうダークで重くネガティブな音楽と苦闘する。まるで合ってない」と残念がっていたが、これが「鐘」を愛せない人々の素朴な感想だろう。ワカンナイ人にはワカンナイ、これはどうしようもないことで、そういう価値観に左右されすぎるものを多くの人が見る競技の場へ持ってくること自体に意義を感じない。

 五輪も今回も俺はつらくて途中で見るのをやめたくなった。五輪時はミスが出て負けが確定したから見るのがつらいのかと思ったが、今回は勝利が間違いなくてもしんどさは同等だった。演技が終わり彼女がほっと息を抜きガッツポーズをした瞬間が、見ていて一番カタルシスを感じる瞬間だった。

 ―――しかしである。こういう不満はファンや批評家が持つものであり、現在の異常な足かせ採点システムを作った当のスケート協会は、選手の努力と達成に対しきちんとしたスコアで報いなければならない。それしか道義は立たないではないか。ルールの厳格化で飛べるジャンプを減らすなどさまざまな足かせを与えておいて、それを律儀にクリアしてもまだまっとうな点をくれない。あげくに目下のコンディションでも「クリーン」な演技をしてみせた高潔な浅田選手に、転倒したキム選手より低いスコアを与えるなんて、これはもう侮辱と呼ぶしかない。得点を見た浅田選手のあの無表情は、もうどう感じていいのかもわからないという呆然だったのだろう。

 俺には「鐘」の良さはわからない。しかしこの日の彼女の演技が誰よりも素晴らしかったことに疑いはない。それを正当に評価してやらない採点システムは、悲しすぎるのである。

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