2010/03/29

日記「フィギュアにおける眼福」.

「アイススレッジホッケー決勝」「ボンバーマン」「久々のクレイ焼き物」

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■10/03/20(土) □ アイススレッジホッケー決勝
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 【スレッジホッケー決勝】カナダは3位決定戦で負けたらしい。となると現在最強は明らかにグループリーグで日本を粉砕し、準決勝で3位フィンランドを下した米国である。さあ決勝。

 【P1終了】うーん、ゴール前の団子から押し込まれた失点はやや不運で仕方がないが(サッカーなら団子になれば危険を避けるために笛が鳴るが、基準が違うのだろう)、日本の攻撃の組み立てが拙い。パックを奪うのとハーフウェイまでは準決勝と同様にプレイできており、先制した米が下がってるせいもあってポゼッションは高いのに、前に運ぶ段階で簡単なパスミスが出てシュートに持っていけないのがもどかしい。そして米のFWが恐ろしく速く、奴に渡るたびにうわー止めろーと萌と大声を上げ盛り上がっております。楽しい。

 【P2終了】米はゴール前のバイタルエリアをブロックでしっかりと埋めて日本の攻撃を潰し、とんでもない能力のFWを走らせカウンターで攻めるというクレバーなゲームを完璧に展開し、まったく付け入る隙がない。日本のポゼッションは高いものの、持たされている感が強い。しかしまあ持てないよりは持たされている方がまだマシなので、とにかくこのまま諦めず根気よく攻めてシュートに結びつけないと。


決勝後、萌が日本の親戚へ書いた葉書。
「ドゥーム」とは、「どよーん」と
した感情を表す音。
 【試合終了】まるでサッカー代表と同じくハードワーキングな組織と縦への強さを武器にした非の打ち所のない米チームが(スレッジホッケーは通常ホッケーよりもお国柄が出て面白い)、先制点を取り残り時間を完璧にプレイし、隙を見せてはくれなかった。しかし米が追加点を取りにきたのを耐えに耐え、足(腕か)が止まった米をあと一歩まで追い詰めたのだから素晴らしい。「(決勝の残り2分を切ったあの時点のあの程度のファウルでパワープレイを取るなんて)これは酷だ」とカナダアナウンサーもつぶやいた最後のファウルまでは、日本も本当によくやったと思う。攻守に獅子奮迅の遠藤は、「こいつは本当に信じられないアスリートだ!」と絶賛されていた。パワープレイで2点目が押し込まれ力尽きたときには、萌はMの肩で少し泣いていた。スポーツの喜びと悲しさを思い知っている9歳の春です。

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 しかしアイススレッジホッケーの面白さを無知な大衆である俺に教えてくれ、ワンサイドゲームになるかもという下馬評と心配を覆し存分に見ごたえのあるファイナルをやってくれた日本チームには感謝したい。北京オリンピック女子サッカー以来の興奮を味わえた、いい試合でした。

 気がつけば日本は知らぬ間にスキーで金も取っていて、メダル11個で6位と素晴らしい成績になっていた。通常オリンピックでも自国有望種目以外は国がまったく力を入れていないという韓国(1個)・中国(0個)とは、こうして草の根で差がつくんだな。日本のスポーツは民本的だ。

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■10/03/25(木) □ ボンバーマン
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 WLが来る。天気が悪いのでボンバーマンをやらせた。古いゲームなので彼は半信半疑な感じで始めたが、数分でやることがわかると狙い通りガッチリはまる。しかしボンバーマンはクイックシンキングがキモなゲームで、モンスターが迫り逃げ道が限られているみたいな複数のファクターを同時に判断するような場面になると、子供は思考停止してすぐにやられてしまう。

 そこでの脳の使い方のスイッチが入らずバトルで負け続け、落ち込み始めたWLが気の毒なので萌に目配せすると、萌は「じゃあチームでモンスターと戦おう」と別のモードにしてくれた。これで2人で協力して面を進めボス敵を倒し、「Yes、俺たちはいいチームだぜ」とWLが超盛り上がる。よしよし。やっぱガールズよりもWLらボーイズの方が単純でよい。

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 【フィギュア世界選手権・男子】高橋が競技史上初のクアドフリップというジャンプを跳んで、カナダ解説が「オーマイゴ! 初めて見たよ! 両足着地だしクリーンじゃなかったが、しかしクールだ!」と興奮する。オリンピックほどのパッションとコンディションがないのは明らかな高橋だが、格の違う勝利であった。ブライアン・ジュベールという人はルックスと4回転で人気があるらしいが、カンフー映画に出てくる白人スターがキレがなくてブルース・リーやジャッキー・チェンの引き立て役にしかなれないように、今日ここでは高橋の敵ではなかったのである。

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■10/03/26(金) □ 久々のクレイ焼き物
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 春休み初日、萌は急にクレイ(粘土焼き物)をやりたいという。今読んでるファンタジー本に出てくるライティング(書き物をする)ドラゴンを作りたいのだという。


ライティングドラゴン。
ノートとペンを持ってます。
 で完成がこれです。萌がこれまで作った中で最もトータルデザインに優れたものができたので、焼き中に形が崩れないようアルミ箔で前後左右をサポートしてオーブンに投入。そしていつもより低温で時間をかけ、まめにチェックしながら細心の注意を払って焼き完成。


念願のロボット兵
 そして俺は1年前にボディを作ったまま放ってあったロボット兵に腕と顔をつけて完成させた。これが実にいいデキになり、萌と抱き合って喜んでしまいました。何歳になっても細工物は面白い。萌がこの楽しみを思い出してくれてよかった。

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 【フィギュア女子SP】浅田真央さんはフィジカルレベル的にオリンピックより落ちており(やせた?)、ジャンプの切れにそのへんの影響が感じられるが、しかしその分と言っていいのかどうか肩の力が抜け後半のステップパートは実によかった。

 カナダのTV解説陣はこの浅田選手のプログラムを、「僕らがシーズン当初これがよくないと言っていたのを申し訳なく思う、見るたびに好きになっていくよ」「この音楽に圧倒されずついにモノにしてしまったわよね」と言っていたが、俺もオリンピック時よりずっとこの振り付けがいいなと感じる。スピードと切れはピークになくても、綱渡り的なテンションが落ちている分柔らかみがうまく表現されている。このSPはキム選手のうっふん007より絶対にいいなと改めて思った。むろんジャッジがつける点は違うと誰もが覚悟しているが。

 大きなミスはまったくなく会場も存分に湧いていたが、しかしトリプルアクセルで回転不足が取られ非常に低いスコアに終わる。カナダのTV解説がスローで見ても気づかないほどのミスなのに、回転不足だとマイナス5とかの爆落ちになるのだそうで、これがフィギュアファンのブログにさんざ出てきた浅田選手の大差負けパターンだ。げんなり。

 続く長洲未来選手がまたも溌剌とした演技を決め、浅田選手を抜いてしまう。頂点を争わなかった分長洲選手のほうがバンクーバーでのダメージが少ないようで、絶品のスピンをはじめ持ち味の切れが随所に出ていたが、しかしスピン以外は浅田選手をどこかで上回ったとも思えないのにいきなり逆転とは。浅田選手のトリプルアクセル減点(結局-5.8点とのこと; 不足というか実は回りすぎらしい)だけでひっくり返ってしまったとしか考えようがない。

 まったくくだらん減点制度だ......と思っているとキム選手が驚きのミス連発。スピンでつまづき、単なる足上げ滑走でバランスを崩すなど、これは試合放棄するのではないかと思うようなヨタヨタになってしまい、フィニッシュして観客に挨拶をする前に両手を広げフラストレーションを示すなど態度も悪く(あれは相撲なら戒告モノだろう)、なんと7位。あらら。オリンピック後にもう一勝負とは、かくも難しいことなのだ。こんな状態で勝った高橋はえらいし、回転不足などという些末ごと以外は完璧に観客を楽しませた浅田選手もアスリートの鏡だな。

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■10/03/27(土) □ フィギュアにおける眼福
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◆フィギュア世界選手権・女子フリー
【安藤美姫】オリンピック時は難解なつまらんプログラムだと思ったが、今日はリラックスしていたのか途中の休止ポーズではっとするほど美しい笑顔が見られ、そこからの躍動には胸が踊った。こんなに魅力がある人だったのかと驚いて巻き戻し、後半を見直してしまった。オリンピックだけのにわかファン(俺)には本当のところはわからないものだの122ポイント。

【キム・ユナ】昨日のあの状態から持ち直すのは不可能かと思ったが、途中の転倒まではさすがと唸るしかない演技。オリンピック時より1つ1つの技の鮮やかさが明らかに落ちているが、こんな状態でここまでできるのだから五輪王者はまことに伊達ではないなと逆に感嘆させられた。

 ―――がしかしそれと勝負は別もので、130ポイントというのはなんなのか。試合にコンディションをちゃんと上げてこず大きなミスを2つした選手にこんな高得点をつけては、他の選手に非礼極まりないではないか。しかもその非礼スコアを見た本人の態度まで「Not bad (なんだ、悪くないじゃない)」と、まことに高飛車女王だったのである(嘆息)。

【浅田真央】切れがない分五輪よりかえってよかったSPよりもフィジカルの不足が目立つが、明らかなミスはなく演技終了。俺はやはりこの「鐘」のどこにも良さを見いだせないが、とにかく「SP・FSともクリーンに決める」という彼女のささやかな願いが叶い、納得のすっきりした表情でシーズンを終えられてよかった。このプログラムに否定的なカナダ解説者も彼女が最後のスピンに入ると、「....これは....多分今年私が見たなかでベストだわ」と押し出されるようにつぶやく。それだけの説得力があった。

 しかしスコアは129ポイント。明確なミスがあった自己のオリンピック時に及ばず、なんと転んだキム選手にも負けている。浅田選手の顔からは何の感情も読み取れない。能面のようなあの無表情をどう受け取ったらいいのだろう。キム選手の高飛車女王レスポンスと浅田選手のこの表情を、ジャッジはきちんと胸に刻んでほしい。

【長洲未来】前半だけでジャンプのミスが小中1回ずつあり、後半は疲れてへろへろになり105、7位にまで転落。酷だが勝負は致し方なし。というわけで結局キム選手が2位になってしまった。浅田選手とのポイント差は1詰まって7。試合放棄に近いSPに加えFSで2つの大ミスをしても浅田選手以外の選手は彼女に勝てないというのは、いくらなんでもなんなのだろう。

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 浅田選手の「鐘」はつまらない。曲や振り付けが凡庸で印象に残らない人は他にも多いが、「鐘」は選手の素の魅力を生かさない度合いで、今日放送があった全選手のプログラム中もっとも大きく才能をスポイルするものではないかと思う。

 大会を通じいろんな選手のさまざまな瞬間が記憶に残る。たとえばレピスト選手の冒頭のスローからエッジを効かせた急発進加速→高速3x3ジャンプは浅田3A2Tより美しいと思うし、彼女や(はるかに格下の)ファヌフ選手のまったりとした動きから急転体がひるがえるような様には、なんともいえぬ味わいを感じる。安藤選手の緩急と歓喜の表現もよかった。そういう女性らしい柔らかみを持つ美しさを徹底的に練り頂点を極めたのがすなわち、キム選手なわけである。浅田ファンはストイックなのかそれを媚だと嫌うようだが、「うっふん」には無論ゲンナリするけれど(今回SPのうっふんはまことに空虚だった)、女性スケーターの動作から溢れ出る優美さは自然な眼福だろう。浅田「鐘」はその眼福をなぜか排除し、何かとてつもないものへと突き進む。

 前半はカナダ解説者も指摘した通りただジャンプのためにリンクを往復し、後半は何事かに取り乱した様子で腕を振り回しステップを踏みぐるぐると回る。あのビンタと激情演技で何かを表現したいのはわかるが、俺はそれがなんなのかに興味が湧かないし、それはその演技が美しいとも、それが表そうとする何事かがきれいだろうとも思わないからである。カナダ解説者は安藤選手のSP時に、「日本女子選手はリンクの外では明るくラブリイな女の子なのに、氷上ではこういうダークで重くネガティブな音楽と苦闘する。まるで合ってない」と残念がっていたが、これが「鐘」を愛せない人々の素朴な感想だろう。ワカンナイ人にはワカンナイ、これはどうしようもないことで、そういう価値観に左右されすぎるものを多くの人が見る競技の場へ持ってくること自体に意義を感じない。

 五輪も今回も俺はつらくて途中で見るのをやめたくなった。五輪時はミスが出て負けが確定したから見るのがつらいのかと思ったが、今回は勝利が間違いなくてもしんどさは同等だった。演技が終わり彼女がほっと息を抜きガッツポーズをした瞬間が、見ていて一番カタルシスを感じる瞬間だった。

 ―――しかしである。こういう不満はファンや批評家が持つものであり、現在の異常な足かせ採点システムを作った当のスケート協会は、選手の努力と達成に対しきちんとしたスコアで報いなければならない。それしか道義は立たないではないか。ルールの厳格化で飛べるジャンプを減らすなどさまざまな足かせを与えておいて、それを律儀にクリアしてもまだまっとうな点をくれない。あげくに目下のコンディションでも「クリーン」な演技をしてみせた高潔な浅田選手に、転倒したキム選手より低いスコアを与えるなんて、これはもう侮辱と呼ぶしかない。得点を見た浅田選手のあの無表情は、もうどう感じていいのかもわからないという呆然だったのだろう。

 俺には「鐘」の良さはわからない。しかしこの日の彼女の演技が誰よりも素晴らしかったことに疑いはない。それを正当に評価してやらない採点システムは、悲しすぎるのである。

2010/03/19

日記「鳥肌のアイススレッジホッケー」

「鄭大世が日本にほしかった」「全盛期の中田のような」ほか。

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■10/03/12(金) □ イモリ水槽にも春
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 イモリ水槽を4L(1/3)換水する。前の全換水からもう 39 日だが、水質が安定し一向にぬめりが出てこない。魚たちが毎日大量に食べ大量に糞をしてるわけだが、ぬめりが出ないということは汚れが分解されているということで、バクテリアの活性が高まっているようだ。この水は大事にしないとな。


そり返ってこっちを見てるんです。
 水温一定でも春がきたのがわかるのか、ここ1週間ほどイモリたちが活発になってきた。水槽ガラスに指をつけると寄ってくる。かわいい :-)。ノボリ・ジムシーはフェイクプラントの葉っぱが好きで、葉っぱに半ば体を隠して過ごしていることが多い。そして俺が覗き込むとエサかなと首をえらい急角度でグイっともたげる。イモリはああしないと角度的に上が見えないのだろうか。これがまたかわいいのである。

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■10/03/13(土) □ 鄭大世が日本にほしかった
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 【Jリーグ・名古屋 VS 川崎】という好カードが TV Japan で放送、前半終了 1-2。なかなか面白い試合だが、しかしお目当ての玉田はJリーグでも今ひとつ真価を発揮していない。勝負機会が訪れるとスピード勝負に持ち込み、半身振り切ってシュートまでは行けるがきっちりミートしないのである。昔のアジアカップの映像では速さではなく緩急で敵を振り回せるところに天賦の才を感じたのだが(※)、代表でもJリーグでも同程度の切れとなると、タマちゃんの緩急と方向転換力はもう出ないのかもしれない。方向転換力で川崎のレナチーニョあたりに劣る選手が、WCでチームに違いをもたらせるとは思えなくなる。
(※)俺はCロナウドみたいにフィジカルに相手を上回り点を取ってしまう選手には感動しないが、タイミングで相手の裏を取れる人間には心底天才を感じ感服する。

 そして鄭大世が強さと反転力と集中力を示す素晴らしい決勝ゴール。ああテセが日本代表を選んでくれていたらば。日本協会はテセを勧誘しなかったんだろうか。日本育ちで現在最強のFWではないか。

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■10/03/16(火) □ 全盛期の中田のような
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 CLチェルシー・インテルを見ていると、本田のチームとセビージャ戦のダイジェストが入る。1アシスト1ゴール。見事。先週に続きカナダ Sponet のダイジェストで本田の名前が呼ばれるのは気持ちよかった。

 ゴールもよかったが、FWとのシンプルなパス交換で崩し自分のシュートまで行ったシーンと、それに続くアシストのプレイが実に素晴らしかった。代表で見る本田はとにかくボールをゴリゴリ持ち出しシュートを打つオレオレ野郎というイメージだが、高いレベルではあんな愚直勝負ではシュートなど打てんとちゃんとわかっているらしい。素早くシンプルなタッチと動きで味方を使い、敵の意表を突き崩してしまうところがなんとも気持ちがいい。プレイの判断と実行が早いので、欧州一流のDF陣が本田の手の先が読めないのである。本田があんなセンスを持った選手だったとは。まるで中田英寿ではないか。

 この2つのプレイではどちらもFWはフリーではなかったのだが、「ここでボールを渡せばあいつが仕事をできる」という瞬間が彼には見えるのだろう。ペルージャ時代の中田が乏しい人材で美しい攻撃を展開できたのは、このように自ら厳しい場所で勝負しつつ味方を生かすというセンスが抜群に優れていたからで、彼がひらめきと技術をシンプルに発揮してラパイッチを操れば、どんな強いチームの守備陣でも破れるというカルチョの夢がそこにあったのである。

 これはもしかすると日本は、全員が猛プレスしやがて力尽きるだけの芸のないチームではなくて、全盛期の中田英寿のような選手を核としたチームでWCに行けるのかもしれない。本田は中田ほどプレイがエレガントでスマートでスター性のある選手ではないが、2002 年でもすでに代表酷使・怪我等でベストの状態になかった中田よりもフレッシュな状態でWCを迎えられそうだし。セリエに中田がいた頃の胸の高鳴りがじわじわと甦ってきた。

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■10/03/18(木) □ 鳥肌のアイススレッジホッケー
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 【スレッジホッケー・VS カナダ】日本はセミに進めれば万歳だと言っていたので、ここはおとといのノルウェーのごとくカナダにボコボコに粉砕されるのだろうと思い期待もせずに 10 分過ぎから見始めたが、スコアはなんとまだ0-0で、なんとなんと日本がパスワークでちゃんとゲームを作っている。驚きつつ数分試合を見つめて、そうかとその理由がわかった。スレッジホッケーは普通のホッケーほどにはフィジカルコンタクトで差が出ないんだ。ならば日本得意の組織プレイがカナダを上回っても不思議はないな。これは面白いと真剣に見始める。パワープレイで圧力に抗し切れず1失点で1P終了、しかしこれは勝負になるぞ。

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 【P2】パワーの違いがプレスの差となってだんだん日本が押し込まれてきた。プレスに負けて苦し紛れの縦パスを出すとパックを失い悪循環で苦しくなるのはサッカーと同じなので、ショートパスでポゼッションを上げてくれ。しかし選手の滑りが遅い分技術と戦術が鮮明に見えて、こりゃ普通のホッケーより面白いな。普通のホッケーほどフィジカル差で優劣が決まらないのが面白いというか、カナダが普通のホッケーで強いのは、単にフィジカルが強いからではないかと思えてきた(笑)。

 長時間の猛攻に耐え、カナダのペースが落ちたところでパワープレイから全員守備と全員攻撃でラッシュを仕掛け、きれいなインターセプトから日本が追いつく。よし。あれだけ守備に頑張った後の攻撃で点が取れないときつかったので、これは勝機があるぞ。ここで一息つきたい。その後のカナダの猛攻もしのいで、ペースを取り戻しイーブンのまま2P終了。日本は落ち着いている。カナダは焦っている。大アップセット(番狂わせ)の匂いがしてきた。カナダ放送の解説にも焦りが見えます。しかし日本はグループリーグ最終戦でステーツにボロ負けしたそうだが、それはこの試合のために捨てたということなのだろうか。信じられないほどいいホッケーをしている。

 「日本は見たことがないほどきついフィジカルトレーニングを昨日やっており、それがコンタクトプレイに生きている。フィジカルで勝るカナダに臆すことなくぶつかっている」とカナダ解説。それに加え、岡田ジャパン的ショートパス全員ホッケーが効いてると私は思う。組織プレイでは明らかに日本が優っている。カナダは個の力で勝る部分で決めてしまおうと選手間が離れがちで、日本はその間隙を縫ってのパスワークが小気味よく決まる。こぼれ球を拾う率とインターセプト率も非常に高い。

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 【P3】組織プレイの日本、個人パワーのカナダで完全に互角なラストピリオド。2ピリオドからカナダにラフプレイが増え、日本のパワープレイが頻発している。それが日本ペースを生んでいるが、だがしかし日本選手も疲れており、コンタクトプレイで相当なダメージも負っている。日本がやや優勢だがお互いフィニッシュまではつながっていない展開で残り5分。

 残り2分、カナダが最後のラッシュを仕掛け、疲れが激しい日本がギリギリまで押し込まれてきた。クリーンなショットは許していないが、混戦からポロっと押し込まれるリスクは非常に高い。これはPKに持ち込むしか勝ち目はないかもしれない。―――と、フェイスオフから突如日本のカウンターアタック、前がかりになったカナダはゴール前に1人しかおらず2対1になり、決めた―――っ! 鳥肌! スレッジの刃の下を通すトリッキーなアシストからの完璧なシュート、ビューティフル!

 そしてカナダが5人で全員攻撃となった無人のゴールにもう1ゴール。うわー鳥肌(笑)。試合終了。大泣きの日本選手たち。やっ・た。やってくれたわ、こいつら。えらい。

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 カナダの解説は大ショックを受けた顔で、カナダに規律が乏しく(ラフプレイによる)パワープレイを与えすぎた、そして日本のGKが人生最高のゲームをしたといっているが、シュート数でカナダが大きく上回ったという類のアップセットではないのだから、GKを日本の勝因に上げるのは当たっていない。パスとインターセプトで上回った日本の組織力の勝利だろう。

 しかし面白かった。この種目はマジで普通のホッケーより面白いと思う。日本が強かったからではなくて、サッカーと同等のプレイスピードやフィジカルx組織バランスになり、パスワークと戦術が楽しめるのがいい。普通のホッケーは狭いリンクに対し選手たちの身体能力が高すぎて、大男たちが猛烈に往復しはじき飛ばし合ってるようにしか見えないのである(パックすらも速すぎて見えないし)。スレッジホッケーではボディチェックもスピードと体重で敵をつぶすのではなく、当たる角度で敵の動きを止めパックのコントロールを奪うという技術の競り合いになり、実に面白い。


Go for the gold medal!
 放課後校庭で「萌、日本がカナダに勝っちゃったよ」と伝えると、「What!?」と萌は狂喜し、大声で友達にニュースを伝える。「ちょっとちょっと、みんなカナダを応援してるんだから、日本が勝ったと大喜びするのはちょっとまずいぞ」と抑えたが、萌の興奮は止めようもなかった。残念なのはこれが昼間の放送だったことで、夕方だったら友達の多くがリアルタイムで見て、萌は鼻高々だっただろうな :-)。

2010/03/10

日記「She Shall be Released」

「フィギュアスケートファン恐るべし」「フィンケ監督の芸のなさ」「日加メンタリティ」ほか

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■10/03/01(月) □ フィギュアスケートファン恐るべし
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 「MURMUR 別館」に続いて Mizumizu さんという、これまたすごいフィギュアスケートファンのブログが見つかってしまった。JリーグとWC94でサッカーに夢中になった頃、ニフティサーブでファン評論の数々を読んでサッカーファンはなんてインテリジェントなんだと驚いたが、フィギュアファンの知性にもドギモを抜かれる。他のどんなスポーツにも負けないほど深くシャープな評論がなされている分野なのだった。

 この Mizumizu さんの記事は冷徹な技術と芸術性評論で、ビデオテープで細かく分析できる演技最長3分ほどのスポーツならではといえる顕微鏡分析(―――と同時にそうした顕微鏡分析による減点システムが自由と美をないがしろにすることへの猛烈な批判!―――)に満ちており唸らされる。キムヨナ選手や浅田真央選手の長所短所を解説した上で、浅田安藤に勝たせないためにキム選手の点がどうやって上げられているかを丁寧に解析している。
この2人にはそれぞれの強さと弱さがある。今のルールがキム選手を過剰に評価し、浅田選手の欠点を徹底的にマイナスにしてくるだけだ。ルール策定でそうなっているのだから、ジャッジはそのとおりに採点する。それにジャッジ団は事前に意識合わせをして採点するから、そこで何かしらの調整が行われる。それだけの話だ。(「いくら完成度を高めても点がもらえない、ジョニー・ウィアー選手」(2010年02月27日))

レベル取りを考えると結局みな、同じようなことをするようになるんですね。そうした要求事項をこなすのにいっぱいいっぱいになって、1人1人の個性を生かした芸術性が消えていく。たとえば、ライザチェックはシーズン初めはかなり密度の濃い、難しいプログラムにしてました。でも、それだと今の採点だと点がでない。逆に減点ポイントが増えちゃうんでしょうね。なんでかなりプログラムをスカスカにして、エレメンツの条件を満たすことに注力したら、点がのびてきました。すぐに対応させた彼も素晴らしいですが…
よくキム選手の演技について、「いつも同じように見える」「つまらない」とメールをくださる方がいます。(中略)つまり今のシステムで点を出そうとすると、どうしてもああいった演技になるんですね。ところがファンは、個性的な美しい振付を見たいと思っている。フィギュアの演技自体が全体的に「つまらなくなった」と言う人も多い。どちらも同じ背景があります。あれこれ詰め込んだエレメンツのレベル取りのための要件を満たすための演技になってしまうんですね。(「なぜ「つまらない」演技の点が高いのか」(2009年04月03日))

 こうした技術解説を読んで、ライサチェクを退屈と感じ、キム選手をライサチェクの切れ向上版と俺が感じたのはそのあたりだったんだなあと思う。この2人は「減点が出にくい技を選び、技を少なめにして時間と体力に余裕のあるプログラムにして失敗を防ぎ、完璧に磨き上げスコアを上げるという」方法で成功したわけである。だから変化に乏しく退屈だと俺も感じたのだ。こうして微に入る分析を読めばキム選手の銀河得点にはロビー活動と過大評価も強力に作用していたとしか考えられず、俺はそれも感じ取ったのである。

 惜しむらくは浅田選手の滑りにもこの状況を打ち破るだけの力はなかったのだが、しかしこの2つのサイトでルールの変遷と状況変化を追えば、彼女(と安藤選手)の得意技がルールによりガリガリと削られていく様が見て取れ、同情の余地は大いにあるとわかる(ジャンプの回転不足ジャッジが厳しすぎて一昨年まで使えた3+3が使えず、あのいかにもショボイ3+2にせざるを得なかったなどなど)。こんな異常なルールが今後も続くはずがなく、浅田選手にとってこれから状況は間違いなくよくなるはずだ。

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■10/03/04(木) □ これがウオッカの見納めかもしれない
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 【ドバイ・マクトゥームチャレンジ】ウオッカが出るので日時をチェックして Youtube で見たのだが、大外を豪快に来た馬は一緒に行ったレッドディザイアだった。ウオッカは好位からまったく伸びず。よく見ると伸びないとわかった時点で騎手(ルメール)が無理に追わずに馬なりで走らせている。もしレースに行ってもウオッカに闘争心が出ないなら、無理はさせずここで(ドバイWCはキャンセルして)引退と陣営は決めているのかもしれない。

 もうほんとそれでまったく構わないです、ファンは。チャンピオンシップはレッドディザイアが戦ってくれる。あれもまったく素晴らしい馬だ。日本の優れたチャンピオンホースなら、つまり十年に一度の名馬クラスではなくても、世界トップレベルでしっかりと走れるだろう。

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■10/03/06(土) □ フィンケ監督の芸のなさ
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 【Jリーグ開幕:鹿島-浦和】興梠がファーストタッチをゴールしてしまった。際どいクロスをトラップせずそのまま打つところがJの規格外にいけそうな興梠の意外性で、素晴らしい。坪井とGKは彼がダイレクトで打つとは思っておらず対処できなかったのである。代表では岡崎がいるので出番がないまま落ちてしまうだろうが、もう少しチャンスを与えてみてほしかった。

 しかしフィンケ浦和はオフがあったのに去年から何も進歩してないのでびっくりした。柏木はいい選手だが、エスクデロという一本調子な選手がいることで何かをやろうとするたびに読まれ潰されてしまう。前がかりな選手が多い中後ろからボールを散らしていたゲームメーカー闘莉王はもういないし。結局みんな平均以上にうまいがちっともシュートが打てないし反撃にはもろいという、去年と同じ浦和なのである。フィンケ監督のこの芸のなさには日本中がびっくりしてるだろう。浦和はどうするつもりなんだろう。

【ウオッカ引退】あ。やはり。鼻出血だそうだ。ルメールが直線追ってなかったのは、おかしいと感じてのことだったのだろう。とにかく大事に至らなくてよかった。考えたくはなくても、同じドバイで悲運にあったホクトベガのことが頭をよぎって仕方がなかったのである。お疲れさまでした、ほんとに。

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■10/03/07(日) □ 日加メンタリティ
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 夜、恒例の「YAWARA」を萌に読む。しかし最近マンガを読んでやってると、俺の日本語発音がえらい弱まっており情けない。もともと声が小さくカツゼツは悪いが、「全日本女子柔道大会選手権」みたいな長い単語が入ると「ぜんにほんジョジュジョ」ともつれてしまう。英語の発音はここ 10 年くらいよくも悪くもなってないと思うが、日本語のほうは萌との語彙少なめ英語交じり会話しか喋る機会が少ないので、こういう普段発音することがない堅い熟語の発音が特に劣化しているようだ。うーむ。

 まあ日本に住んでいても本を音読するなんて機会はないし、在宅で仕事をしていたら似たような環境になるよなあ。意識して口の筋肉を動かすよう、「アエイウエオアオ」みたいな運動をやっていこう。それにこうして読んでやること自体が俺の訓練となる。考えてみれば雑誌「おひさま」を読まなくなってもう2~3年、俺が萌に何かを読んでやったことなどないからな。

 最近萌が英語で話していると、俺はJDその他のクラスメイトと喋っているかのような気がする。内容よりもスタイルが勝った、レトリックをべらべらべらと喋ることが多い。クールであるべく何事も断定口調になるところに虚勢があり、ディズニーチャンネルのハナモンタナその他にも似ている。おいおい日本語を喋ってくれと指摘すると元の萌に戻るのだが、カナダの小学校にいるとこれはもうどうしようもないのだろうか。学校が違うKTたちにも似た傾向はあるしなー。

 日本語の語彙が増えないことには、表現法として英語が圧倒的優位になりメンタリティも英語化して行く一方なので、こうしてマンガやゲームの力を借りて日本語力を伸ばしていきたい。TV Japan がここ1年ほど面白い番組をやってくれないのが残念。

 萌はこないだのオリンピックもあって「自分は日本人」という強い自我があるが、別に日本人でなくてもいいから、誰かみたいではなく彼女らしくビューティフルな精神を持っていてほしいのだ。

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■10/03/08(月) □ She Shall be Released
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 今日は掃除&オフ。そして Mizumizu さんのフィギュア評論をついに完読となる。最初に見つけた「MURMUR 別館」さんもスケート愛にあふれ素晴らしかったが、微に入り細に入る技術探求がなされた Mizumizu さんブログはテキストだけで 1.3MB もあり、これは書籍1冊では済まないほどの量だろう。すばらしい。フィギュア評論界の武藤さんだ。

 この2つのサイトのおかげさまで、過去4年ほどのフィギュア界の流れがばっちりわかり実に面白かった。キム選手は引退するそうだが、今後改正されるだろうルール下で浅田選手たちと彼女が競う機会がなくなるのは残念ではあるものの、やることをやり尽くし頂点に達したわけでその引退を惜しむ声はさほど上がらないんじゃないかと思う。あのエキジビジョンの「After the Thrill is Gone」といった感じの静かな演技と会場の反応を見てもそう思った。それと違い浅田選手はエキジビジョンを見ただけで、縛られているものから解放されればもっと素晴らしいものが見せてもらえるなと誰にでも分かる。

 Youtube で伊藤みどり選手のカルガリーオリンピックの演技が見つかり、これがすごかった。ダブルのジャンプで1発目着地に失敗(ステップアウト)しても躊躇なく2発目を飛び、その着地も同様に失敗してるのにもうどうにも止まらないという勢いで一瞬もためらわず次の技へと突き進んでいく。アメリカの解説者が楽しすぎて大笑いし、観客総立ち、みどり感激大泣きという素晴らしい演技だった。

 浅田選手が現役の間に、こういう演技が見られたらと願う。あの人の才能と美が自然に発露され、人々に楽しまれ、そして正当に評価されますように。Any day now, any day now, she shall be released。

2010/03/01

日記「真央とヨナへの違和感」

「世界最高得点の謎」「終わっちゃうのって悲しいよね」ほか。

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■10/02/25(木) □ 真央とヨナへの違和感
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快適なオリンピック臨時トレインで
 【オリンピックムード味わいツアー#2】今度はオリンピック関連エキジビジョンが3つほどあるグランヴィル・アイランドへ行った。なんと今はうちの近所のコキットラム駅からトレイン2本とオリンピック臨時シャトルトレインを乗り継ぎ、グランヴィルまで行けるようになっているのである。こりゃまるで東京じゃないか、すごいなと乗り継ぎのたびに感動しラクラクと到着。やっぱ電車はいいよなー。オリンピックを機にこれほど素晴らしいパブリックトランスポートができているとは、恐れ入りました。萌はカナダ応援帽子をかぶっています。

 グランヴィルは大賑わいだったが、各国パビリオン的なものは結局入れず、1時間半も並んでMが目を付けていた「イーストコースト館」に入る。これは東海岸の料理学校生徒が作ったシーフード味見のみと実はしょぼかったのだが、このムール貝蒸し煮とチャウダーがめっちゃうまかった。調味料が何も入ってない完璧にシーフードだけで出たダシが素晴らしく、昆布の入ってない鍋という感じの絶妙な味がする。料理学校生徒にこんなにうまいものがつくれるのに、なんでレストランはハズレが多いのだろう。

 次に行ったのは「フランス語館」で、これはもちろん萌のフランス語を試すという目的で入ったのだ。入るやいなややや緊張しつつも決然とした面持ちで萌はブースの女の子にフランス語で話しかける。そしてペラペラと長時間会話を楽しんでしまうのだから驚いた。難しい語彙はおそらくないのだろうが、英語・日本語とまったく同じように無問題で喋っている。うーん、すごい。俺とMは内容がチンプンカンプンで横で聞いてるだけ。

 萌は自分がフレンチを喋れること、それがこうしてフランス語圏で完全に通じることに大いなる喜びを感じ、次々にブースに飛び込み「このブースはなんなんですか?」と会話をして景品をもらってくる。ついに全ブースを制覇し、ポスターやらバッジやら帽子やらを大量にゲットしました。フランス語科(※)に萌が入りよかったと思ったことは俺は正直あまりないのだが(何をやってるか課題がわからんので嫌だと思うことは多々ある)、実地でここまで喋れるのを目の当たりにすると、その効果のすごさを認めざるを得ない。
(※)教室では英語を喋ってはいけないという、カナダ公立学校のフレンチエマージョン(フランス語漬け)プログラム。


ダウンタウンの賑わい。萌は
フランス語館でもらった帽子を
かぶってます。
 帰りはトレインを1つ前で降り、バンクーバーのオリンピックホコ天の雑踏を歩き帰ってきた。街頭芸人やらイベントテントやらで盛り上がっておりお祭りムードで楽しい。例によってピンバッジの屋台が大量に出てるので、萌はこういうの欲しくないのと聞くと、「ほしい!」と目の色を変えて物色し、日本の旗がついてるやつを苦労して見つけ購入。これはいい思い出になるだろう。

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◆女子フィギュアスケート・フリー
【安藤美姫】何がポイントなのかよくわからないアラビア風を粛々と遂行し、本人も客もこの演目の何を楽しめばいいのかわからんという感じで終わる。カナダ解説もダイナミズムの不足を指摘し、「ミキは慎重にやりすぎている。慎重にやって、上位が落ちるのを待つという戦略なのかしら」とコメント。そういう計算ずくをするメンタリティが日本女子選手にあるとは思えず、観衆を沸かせられなかった振付・コーチ選択の失敗としか言いようがない。

【キムヨナ】連続ジャンプを笑顔のまま軽々と決めていく。短い助走でダブルを完璧に回ってしまうところやエッジをきかせくるりと弧を描いたりする優雅さが素晴らしいが、「オリンピック史上最高のフリー演技の一つでしょう!」とアナウンサーが連呼するのには違和感を感じて仕方がない。あっさり淡白な味わいで、そんなに特別なものを見ているとは感じられないのだ。単にうまいから余裕で苦もなくやってるように見え、ゆえに全身全霊を傾けた演技に見えないだけのことかな。このプログラムの地味さはコーチが男だからというのもあるのだろうか。

 「そんなにすごいかなあ」と俺がつぶやくと解説を聞いたMが、「エッジのイン・アウトとか、素人には分からない細かいところが全部ポイントになって差がついてるのよ」という。そりゃそうなんだろうが、素人に見えないものが本当に大切な美なのだろうか。カナダ人は何事も前評判を鵜呑みにするところがある(俺は逆に前評判を疑うクセがあるが)。キムさんはコーチがカナダ人の元悲運の人気スケーターで、本人も英語が喋れるというところもポイントが高いのだろう。

 ヨナさんの演技が終わり、「史上最高得点! 世界新記録だ!」と大騒ぎになる。そんな新記録って言ったってフィギュアは採点システムがコロコロ変わるわけで、数字で盛り上がる種目ではない(※)。スコアはともかく小味が端々に効いて見事でしたというのが俺の感想。
(※)翌日の英字記事で、「もしヨナが後半ただ8の字を描いて滑っていたとしても、スコア上はヨナが浅田を上回っていたことになる」「オーサーコーチは、『あれほど完璧だとそういうスコアが出ることもあるんだよ...』と語尾を濁した」という記事があった。それくらいインフレの激しかったスコアだということだろう。

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【浅田真央】キム様万歳と大騒ぎになってる中リンクへ登場。もう逆転なんてあり得ない点差になってるわけで、とにかくやれることをすべてやりきってほしい。SP同様緊張の面持ちながら果敢にアタックする浅田さん。中盤まではヨナひいきの解説までもが「彼女は最後まで諦めず戦い抜く覚悟だわ」と嘆声をもらすほどの演技を見せていたのだが、その直後のトリプルで回転が足りず、次のジャンプで氷に足を引っ掛けてしまい万事休すとなる。力尽きた。こうなると残りの時間はどう熱を込めて演技しようとも過剰な荘厳さだけが重く響き、見ていてつらくなってくる。フィニッシュでの悲愴な表情は実に悲しかった。

 どう見ても本人の資質になさそうなこういう鬼気悲壮激情を演じるというのはしかし、どうなんだろう。あれほどイノセントな魅力にあふれた少女が、生まれてこの方プライベートでしたことがなさそうな表情と感情を演技のために全身にまとっているわけで、フィギュアスケートというものにそこまで演劇的要素を込めるべきものなのかどうかよくわからん。あれほどのアスリートがなんでそこまでしなくちゃならんのだ、美しいジャンプと滑りを心ゆくまで披露してくれるだけでこの上ない眼福になるではないかという筋の通らなさを感じる。この曲でたとえすべての技が成功していても、痛々しいという俺が受ける印象に変わりはなかっただろうし、キムヨナさんよりいいとも思わなかっただろう。

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【ロシェット】浅田さんがこうなった以上は、ジョアニーに完璧な滑りで銀を取ってほしいと皆で期待する。彼女は練習から完璧な集中を見せており、スケートなしで歩く姿からしてチャンピオンとして振る舞い、グレイトなことを成し遂げるためのゾーンに入ってるのが明らかだった、だが能力がその精神にわずかながら追いつかず、ミスをして得点は伸びず。浅田さん同様彼女もSPのほうがよかった。

【長洲未来】そしてフリーも長洲未来さんが一番よかった。スコアはともあれ解説にも会場にも一番ウケていた。浅田さんもあんな異様に荘重なロシア風ではなく、こうした軽く明るく飛びしなるスケートをやってほしかった。ロシア振付なんて、浅田さんのイノセンスを世界に見せる機会をゼロにしただけではないか。

 韓国国内はともかく世界スケート界がキム様万歳になってるのは何かが絶対におかしいと感じるが、それとは別に浅田さんの点が伸びないのは、実は見てて心地いいかどうかという単純な部分があるんじゃないだろうか。この点差は若い女性のよさをスポイルしているロシア的美学への「古い!」というメッセージなんじゃないのかな。浅田さんがあの超級の身体能力とイノセンスを全開に楽しく滑ってくれたなら、誰もが喜んだろうしさぞかし素晴らしかったことだろうと残念で仕方がない。コーチ(=本人の方針?)を変えない限り浅田さんは今後もキムさんを敗れないだろうが、長洲さんはこのまま行けばどこかで必ずやってみせるだろうと思う溌剌たる滑りだった。

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 4年前の日記を見ると、荒川さんの滑りに俺は「義務ジャンプをこなした後の残り時間は本当にため息をつくしかない、体全体でおーほほほほと笑っているかのような女王の滑りであった。素晴らしいとしか言いようがない」と感動しているが、今回のメダリストたちの滑りはそこまで俺の琴線には触れなかった。ヨナ・浅田さんのほうが荒川さんより数段格上の才能を持つアスリートだと思うが、しかしそれと感動は別なのだ。

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■10/02/26(金) □ 世界最高得点の謎
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 話題になってるので、浅田真央さんの涙のインタビューというのを Youtube で見てみると、悔しさでボロボロになりながらも、死ぬほどつまらない、何のインスピレーションも呼び起こさないインタビュアーの質問に最後まで答える姿が健気の一語。今回浅田さんの滑りも喋りも初めて見たのだが、どうしてこれほど人々に愛されるのかがよくわかった。なんか天然なアイドルみたいな子なのかなと思っていたけれど、天才で健気なんだから、そりゃ愛さずにいられないな。

 Mは女子フィギュアの表彰式を見て、シルバーを取ったのになんであんなにアンハッピーなのといぶかっており、泣くのをこらえているだけではないか何を言ってるんだと俺がやや声を荒らげたのだが、Youtube の英語コメントにも同じような感想がずらずらと並んでいる。欧米人には悔し泣きというのはメンタリティとして理解できないのだろうか。負けて笑うのは立派なスポーツマン精神だが、笑えないほど打ちのめされることだってあるのである。

 四年に一度の一瞬の完璧さに人生をかけ、夢破れて打ちのめされた人の涙の意味を理解できないメンタリティがつまり、オリンピックに楽しい楽しいスノボクロスやらビーチバレーを組み入れているんだよな。

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 Youtube のこのページから『キムヨナ選手の「世界最高得点」の意味を考える(MURMUR 別館)』という熱心なフィギュアファンのページが見つかり、キムヨナさんの今回のSP超高得点はやはり異常だというストイコ、キャンデロロらのコメントも読めた。キャンデロロはフランスの放送で真央との得点差に激怒していたとのこと。カナダのスケート記事はクイーンキム万歳一色なので(※)、ネットでもこうしたコメントが見つからなかった。動画を見るとストイコは、「あまりにも高すぎる、馬鹿げている (way too high, ridiculous)」と言っている。カナダのTVコメンテーターと正反対の意見だ。

 この人の記事が点差増大の経緯をまとめてくれているのだが、
  • 高難度ジャンプ失敗の厳罰化とエッジングの厳格化で調子を崩す選手たち
  • しかしキムヨナのみ厳格化除外
  • 過去3年くらい同じプログラムで点数がどんどんと上がっていくキムヨナ
  • 韓国系カナダ人の ISU スケート協会副会長(まるで鄭夢準!)の存在
  • 韓国協会のロビー活動

 等々、WC2002 そっくりのバックグラウンドがあるのだそうだ。うーむ。まあしかし真偽の程も WC2002 と同等なんだろうな。起こった現象と状況は限りなく怪しいが、韓国選手が究極の力を出し切り素晴らしかったのは事実だということで。こういうもろもろを読んでも男女フィギュアの順位が不当だとはまったく思わないが、史上最高銀河系スコアを俺が不自然と感じたのも道理なのだと裏付けが取れ、気持ちが落ち着いた。

 浅田さんは彼女だけができるベストをびしっと示すことで、キム様万歳の流れと戦い抜きたかったのだろう。しかし彼女はスランプに陥っても帰ってきて銀メダルを取ってみせたのだ。まだ 19 歳で、幸いに日本人なのでこれから体重がつくこともあるまい。今後を楽しみにしよう。しかし俺がフィギュアスケートをこんなに熱心に見ることになるとは思わなかった(汗)。

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 スピードスケートの【団体追い抜き】という種目決勝になんと日本女子が残り、相手は準決勝で痙攣で倒れたジャーマニーだ、勝てると盛り上がる。実際レースが始まるとドイツ選手は疲れているのか動きが鈍く、日本チームは他のチームが全然やってないきれいなローテーションを実行してあっというまに大差がついていく。金メダルレースなのにこりゃ一方的になってしまった、これ以上見苦しい差はつけずペースを維持してもらいたいと思っていると、残り1周でドイツがぐあああと加速し追いついてきた。


なんてことだの団体追い抜きレース
 うわ、頑張れ頑張れ頑張れ抜かれるなと萌と必死に応援するも、ゴールインは完璧に同時。残ったか? ―――あー、日本選手の足が1本ゴールを超えてない~~。これで今回日本は金メダルなしとなってしまった。ま、これは取れたら望外の番狂わせだったので、よく頑張ってくれましたというところだが、選手はあの足を引っ込めていればと悔しいことだろう。萌は5分もの間、へたり込んで呆然としてました。まことにまことに金メダルというのは難しいね。

 あとでちょうどドイツ移民の子であるM姉の旦那が来たので「ドイツの女は強い」と話すと、「あいつら実は男なんだ。腋毛もそってない」という。そうかー(笑)。

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 浅田さんのエキジビジョンを見て、この人は本当にスポーツの天才なんだなと感じる。3回転くらいだともうほとんど止まったようなスピードからふわっと驚くような高さに浮かび回ってみせる(また氷に足を引っ掛けていたが)。本番よりもこのエキジビジョンのほうが音楽も演技もよかった。リズムにのって首を激しく揺すり踊る動きなど、スケートの大技に勝るとも劣らない強さで俺の目を捉える。なんでこの天然の美を本番で見せないのかなあ。彼女のこの笑顔が見たかった。実に惜しい。「MURMUR 別館」さんによればやはりSPもフリーもロシア曲で重すぎるとファンの間でも賛否が別れたのだそうで、ロシアの大御所おばあさんコーチを選んだのが道の誤りだったのだろう。

 本番が終わると研ぎ澄まされたものが緩むのか、どのスケーターもジャンプでミスを連発していたが、プルシェンコは本番同様ぶれていてもスポットライトに氷を飛ばし転ぶ寸前まで攻めたジャンプを飛びまくり、ライサチェクに至っては本番とほとんど同じなんではないかと思うほどの密度の演技を完璧に決めてみせ、プルシェンコよりもウケることで金メダルの説得力を証明してみせたのが面白かった。

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■10/02/28(日) □ 終わっちゃうのって悲しいよね
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 【ホッケー決勝】予選で米国に為すすべなく負けて以後は反省し調子を取り戻しているらしいカナダが、2-1でリードを保ったまま試合が続く。しかしリンクがオリンピック国際規格より幅が狭い(4m?)NHL規格なので、双方調子がよく陣形のバランスが取れているとパスなど通すスペースがなく、ドリブル(?)で持ち上がってチェックで潰され、反撃してチェックで潰されが延々と繰り返される。試合はピンチとチャンスの繰り返しなので白熱しているが、やってることは持ちすぎパスなし小学生サッカーみたいなもので、俺のような部外者にはさほど面白くない。オリンピックだけは広いリンクでパスが通りカウンターが効き、速い選手、強い選手といった個性も際立つのでホッケーが面白いと思っていたのだがなー。どうしてアメリカカナダってこう単調なスポーツが好きなのだろう。

 最後の1分、自陣にこもったカナダを米が猛攻し、なんと残り25秒で追いついてしまった。この国ってやっぱガッツあるよなあと認めざるを得ない。結局延長戦でカナダがサドンデスゴールを決め、盛り上がる国中の映像が流され、うちの近所からもラッパの音と花火が上がりまくり、ハッピーな幕切れとなった。よかったよかった。友達の家にいた萌を迎えに行くと、道にホッケーシャツを着た人々が溢れ出し旗を振りラッパを吹いている。国中大盛り上がり。よかったよかった :-)。

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 【閉会式】異常にイモな「オーバンクーバー」と歌うバンド、つまらんポップシンガー、オペラ歌手連発と開会式よりもはるかにつまらない演し物が続き、会場がしーんとしている。各種スピーチがあって、やっと、やっときたのニールヤングが「Long May You Run」を歌い(スタジアム中が歌える「Heart of Gold」をやるかと思ったが、それじゃ「金メダルにひっかけた」みたいで下品か)、その後は終幕までトーク&ミュージックショーとなった。

 トークはカナダで一番ウケる「あるある」もので、世界の人々は「カナダ人はなんでもないことに『Sorry』とつい言ってしまう。」「カナダ人はバックベーコンを食べている」「国全体が氷漬けだと思われている」などなどの、カナダに対するステレオタイプ観念をからかうものが多い。こういうゆるいジョークが妙に好きだというのもカナダ人の特徴だと思う(笑)。

 後は延々と音楽。しかしこのミュージシャンの粒がどうにも揃わない。アヴィリルラビーンははまあ旬だからいいが、アラニス・モリセットはバラードをやっちまうし、その他は名前も聞いたこともない若手バンドがぞろぞろと出てきて実にレベルの低い音楽をやらかしてしまい、客もアスリートも盛り上がりようがなかった。もっといいのはそれなりにいるぞ。ファイストとかベアネイキッドレディーズとか呼べなかったのかね。

 ニール・ヤングが歌ってる時、彼のあとカナダから1人もロックグレイトが出てないのはなぜなのだと考えたが、強力女性ポップボーカリストはどんどん出てくるのにバンドはホント駄目だなとつくづく思う。開会式はカナダ文化をうまく表し見事なものだったが、閉会式はカナダポップ音楽のレベルの低さを示すプレゼンテーションになってしまいました。残念。

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 閉会式が終わったTVをぼんやり眺めながら、あーあ、終わってしまったなと萌と話す。萌は「終わっちゃうのって悲しいよね、ハワイとか、スリープオーバー(お泊り)とか」とつぶやく。そうだね、寂しいね。お父さんが子供の時札幌オリンピックがあって、子供たちはすごく盛り上がったんだよ。萌もこのオリンピックをきっと絶対忘れないだろうね。