2011/04/29

日記「日本人の音楽リテラシー」

「カナダの画家たち」「中学校見学」「NHK『おひさま』の楽しみにくさ」

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■11/04/17(日) □ カナダの画家たち
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 となり町ポートムーディのアートフェスへ。町のお祭りなのかと思ったら、PoMo でスタジオを借りてやってる画家たちの合同イベントで、町では特に何もやっていなかった。街路樹が1本アーティストによりショッキングブルーに塗ってあった程度。

 カナダのアートというのはいつも思うのだが、特に風景画は凡庸なものが多い。写真から構図をていねいに写し取ってきれいに色を塗ったみたいな絵が並んでいる。つまり写生ですね。題材も湖に杉と山いう、カナダだったら全国津々浦々どこにでもある風景が多いし。俺に絵が分かるのかといえば分からんのだが、日本でやってたバンドのメンバーは全員美大生だったので、あいつらならこんな平凡な画想は抱かないだろうくらいは分かる。


こういう題材を筆でていねいに
描いているわけです。
  一番脱力したのは海辺のデッキチェアを精密に描いたものだった。リゾートに行ってビールでも飲んで感じた幸せを描いたのだろうか。そりゃよござんしたねくらいしか言いようがない。こりゃ絵日記の挿絵である。

 しかしこのイベントに誘ってくれたGYの絵はよかった。実は彼女の家にある自筆の絵をいくつか見て、ああこういう感じなのねと軽く予断を抱いていたのだが、出来がいいのは当然ながら全部こっちのスタジオに置いてあったのだった。彼女の絵も風景画だが上記のような写生ではなく、美しい風景に打たれた心象を水彩でしゅっと表している。風景から色彩と陰影を切り出す筆さばきにスピード感と俳句的な芸があり、オリジナルな美を作り出している。とても気持ちがいい絵であった。

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■11/04/20(水) □ 中学校見学
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 9月から萌が行くMC中学校の説明会へ行く。4人ほどの教師が「チーム」となりお互いに互助していくという学業システムの説明もよかったし(これは秀逸な仕組みで、馬鹿な教師の怠惰と暴走を抑制できる)、多彩な課外活動の話も胸が躍る。

 音楽室にはドラム2台、ガットギター20台、エレキとベースが10本、ミニキーボードが10台もある。これだけあればクラス全員に楽器が行き渡るだろう。指導の先生が元ミュージシャンだったというおじいさんで、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」などを教えているとのこと。その横には体育館とは別に舞台アート専用のステージを持つ小さな講堂があり、照明や音響が完備されている。

 教室を巡ってみるとどのクラスもテーマを決めて生徒たちが紙類で飾り付けており、ごちゃごちゃっと乱雑に賑やかでいい感じである。どの教室にもカウチが置いてあり、フレンチ8年生のクラスにはなんとバスタブが置いてある。これはなにかと尋ねると、生徒が落ち着いて本などを読めるよう他のクラスはカウチを置いてるんだけど、私はこれに決めたのよとファンキーな先生が言う。こりゃいい学校だな。施設も校風もいい。ここに通うカナダの子供が羨ましいよ。

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■11/04/25(月) □ NHK「おひさま」の楽しみにくさ
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 3週間経っても NHK「おひさま」は面白いのかどうか今ひとつ分からず流し見してるのだが(まあダメな朝ドラは1回目ですっぱり見限れるから、まるでダメではないのは確か)、満島ひかりさんがとても魅力的だ。誰かにすごく似てるなあとずっと考えていて、姪のSFだと思い至る。

 満島ひかりさんは別に外国人ぽくなく、SFはアジア人ぽいところがまったくないのに、2人はそっくりなのが不思議。

 しかしこのドラマはなぜか、戦前の日本を現代のおばあさんが振り返るという意味のない二重構造になっていて、そこが味を落としている。元気で明るい主人公の60年(?)後が若尾文子だという設定だけですでに物語の結末を見てしまった的な大きな興ざめ感があるし、斉藤由貴のべちゃっとした芝居がそれに輪をかけて興ざめを加速させている。なんなのかなこの馬鹿げた無駄は。

 だいたいナレーションというものがなければ視聴者は物語の意味や感情の機微がわからないと思ってるところが、朝ドラ制作者はひとを馬鹿にしている。解説不要のベタなストーリーではないか。「あの頃は喫茶店に行くだけでも大変な悪いことだったの」「男の人に手を握られただけで死にたくなったの」なんつーナレーションは単に自明の繰り言であり、現代シーンと共に物語の鮮度を意味なく落としているのである。

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■11/04/26(火) □ 日本人の音楽リテラシー
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 萌を学校で降ろしたあとラジオで珍しく Zep の「ランブルオン」がかかり(普段は Zep でももっとメジャーな曲がかかる)、なんちういい音が詰まりまくった曲なんだと改めてびっくりした。イントロでスティックがパタパタと鳴り出しただけでウオウ気持ちいいと肌がざわざわする。あれは何を叩いてるんだろう。座布団?

 これをレコードで聴いてた高校生の頃は、こんないい音に気がつかなかった。大人になってからも多分わかっていなかった。年を取るといいことはあまりないが、前には分からなかった良さがわかったりすることもあるのだ。

 ラジオや MP3 じゃなくてもっといいハイファイで「ランブルオン」を聴きたくなるが、レコードもステレオも日本に置いてきてしまったよ。そしてたぶん実家の母親に捨てられちまったよ。哀愁のヨーロッパ。

 俺はアコースティック的にいい音が聞きたいのだが、それは別にアコギの音とは限らず、人間の手足が楽器に触れることで出てくる、不定形な音が気持ちいいのだ。たとえば軽く歪んだエレキギターのざくっとしたコード音、ボンボンとスキップするベース。ポップ音楽にはこういう《人が楽器を鳴らしそれが空気を震わせている音》がまったく不足している。たとえば中島みゆきの歌はすごいと思うが、彼女の歌を構成する楽器の音は全部つまらない。レディガガの今流行ってる曲(Born This Way)も、メロディはかっこいいが単調なシンセ音に耳が耐えられない。

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 しかしこうしてカナダのラジオから流れてくるロックのうちイイものは大抵知っている日本のリスナーのロックリテラシーは、国際基準でも相当に高いんじゃないかと思う。これに加え日本の音楽も同量以上に知ってるわけで、総知識量は間違いなく英米加ロックファン以上だ。

 カナダで暮らしていて悔しいのが、日本のすんばらしい音楽をどうやってもこうやってもカナダの人たちに伝えることができないことで、奥田民生などを聞かせるといいねと言ってくれるけど、それ以上踏み込んではもらえない。やっぱ一緒に歌えないという言葉の壁は厚い。

 俺はもしラジオからサンボマスターみたいのが聞こえてきたら、それが何語であっても反応すると思うが、そういうの(言葉はともかくいい音楽はいいと思うの)って日本人リスナーだけなのかしら。台湾の Crowd Lu 君なんかすごくいいです。

 日本の音楽をカナダに伝える方法はないかと考えて、娘を優秀なロッカーに育て上げ、日本語ロックを翻訳し歌わせるという案を目論んでいたのだが、現時点では米ポップに完璧に娘の魂を奪われています。がっくし。

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