2016/10/26

【MLS】ホワイトキャップス/2016 年シーズン大敗のまとめ


(whitecaps.com)


10 月 23 日、バンクーバー・ホワイトキャップスの 2016 年シーズンが終了した。上位チーム(――というか東西6位までの過半数12チーム――)はこれからプレイオフで盛り上がるのだろうが、キャップスは西地区8位で3年ぶりに進出ならず。工藤とわたくしにとっての MLS 初シーズンは、予想を大幅に下回る苦闘となりました。

①夏のチーム崩壊のあらまし
②工藤が機能しなかった理由
③工藤の去就




①夏のチーム崩壊のあらまし


6月にシーズン前半まとめ「工藤加入からここまで」を書いた時点では、「ロングボール主体で FW にはきついチームだが、新加入コスタリカ代表ボラーニョスがリーダーとなって無駄なロングボールを減らし、つなぐサッカーを進化させていくだろう」と思っていた。そしてシーズン終盤には工藤の怪我も癒え、プレイオフで見どころを作るだろうと希望的観測を抱いていた。

ところが、工藤は大怪我からわずか2ヶ月の7月に驚きの早期復帰を果たしたものの、チームの方が夏になり気候が厳しくなると大スランプに陥ってしまったのである。そこからついに立ち直ることなく2ヶ月間1勝8敗3分けという、驚異的なスランプで2位から9位まで転落してしまった。工藤はシーズン通算わずか2点。というかストライカーは5人全員今季通算2点ずつ(笑)。プロサッカーチームとして記録的な非生産性だろうこれは。

              Ousted
Aird, Waston, Parker, Harvey
         Laba,  ★Morales
Bolanos,  Mezquida, Techera
              Kudo
(工藤が先発で出ていた頃の基本フォーメーション・4231)

チーム崩壊の目に見える要因は主将モラレスの不調だった。チームの司令塔であるこの攻撃的ミッドフィールダーは明らかに脚のどこかに不具合を抱えていて(※ちょうど今日26日、「ずっと痛みを抱えながらプレイしていた」とインタビューが流れた)、夏以降走れず反転できず運動量が激減していた。ドリブルは一切せず遠くから浮き玉のパスを送るばかりで、ラストパスを出すべき司令塔がハーフラインより後方にいては実効性ある攻撃などできるわけがない。FW は後方深くから飛んでくるロングパスを収めて潰されるか、無理にシュートに持って行き吹かすのみ。もともと涼しいバンクーバーに在し夏場を苦手とする運動量頼みのチームでもあり、モラレスに足を引っ張られ為す術ない敗戦が続いた。

モラレスの代わりに運動量のある MF を出すだけで連敗は脱せるとツイッターのキャップス TL は騒いだのだが、監督は彼のロングパス精度がどうしても必要と考えるのかポジションを変えては出し続けた(※チーム周辺のメディアはみな監督と友だちなので、モラレス重用の理由という核心に突っ込むことは最後までなかった)。優秀なリンク役となるはずだった工藤の大怪我、工藤と合う技巧派エース・リベーロの移籍、ドリブルもパスもできる MF ボラーニョスのコパアメリカ遠征が同時期に重なったのも、チームがフォームを崩した理由だろう。

ホワイトキャップスがストライカー泣かせのチームだったことは MLS の統計にも出ていて、シュートにつながった「キーパス」数でボラーニョス以外の AMF は他のチームよりも大幅に低い数値を残している。ST に一番近位置にいる AM メスキーダはうまいが小兵でつぶされやすい上にパサーではない。後期唯一勝てたが内容ナッシングだったコロンバス戦ではショートパス数が 400 対 200 と相手の半分で、いかにパスをつながないチームであるかを示していた。なんせアシスト数はリーグ最少ですから(リーグ最高64平均45に対し25!)。

工藤は加入時「チリ代表のパッサー(モラレス)がいるのでボックス内でフィニッシュを頼む」と呼ばれたそうだが、実際はロングパスしか出せないモラレスたちが工藤たち FW を苦しめたのだった。この縦ポンサッカーに多様性を加えるためにロボ監督は工藤を取ったのかもしれない。前半期の工藤は出れば必ずワンタッチでシンプルにつなぎ、ボールを渡さず敵の意表を突いて点を取ろうというリズムを作っていた。しかし成果が出始めさあここからというタイミングで工藤は大怪我をしてしまったわけである。

②工藤が機能しなかった理由


工藤が機能しなかった主因はかように生きたボールを供給できない中盤(――究極的にはモラレス中心のサッカーを直さなかった監督――)にあると俺は考えるが、しかし工藤自身にも可能性を感じさせるものは少なかった

工藤の長所は動き(位置取り)とタイミングで敵をあざむく意外性にあると思うが、動きの中で足元にパスをもらえないので、トラップ一発で DF を外しシュートという得意の形には持っていけない。浮き球を収めたり、ゴールから遠くへ開いてボールをもらってからがキャップス FW の仕事なので、いったん人もボールも止まりマーカーがついた状態からぐわっと大きくボールを動かし DF を交わさねばならない。香川だってマン U でサイドから単独突破なんかできなかったように、そうしたお互い意図がわかった上での速筋の強さ稼働幅のデュエルとなると工藤に限らず日本人は厳しい。そういうシーンで互角にやれるのは今は原口くらいじゃないかと思う。

スピードやトリッキーな足技のあるタイプではない工藤は、一瞬の動きでの意外性を(味方のビジョンのなさゆえに)封じられるとボールを持っても前方にアタックすることはできず、後方へ安全につなぐことしかできない。前半期のようなワンタッチの攻撃的なつなぎをやらせれば彼はチームの FW で一番うまいが、後半期は近くにボールを持ってきてくれる選手がいないので本当に何もやりようがなかった。工藤の周りには相手 DF しかいなかったのだ。


チームが無策不調で何もできないならどうすればよかったのか。シュートど下手な FW ハータードは点を取る代わりに死ぬほどプレスしてボールを奪う。ベテラン FW ペレスはボールをくれと大きな身振りでアピールし、こないなら定位置を放置して中盤に下がりボールに触りゲームを作る。日本人 FW が海外で成功しないのはこういう「ジェスチャー(態度で示す意思)」が足りないからだろう。自分もプレスして守備を助けるから、なんとかしてボールを運んできてくれ、ボックス内で勝負させてくれというアピールを工藤にしてほしかった。しかし工藤はただ黙々と、もしボールがくれば機能する仮想位置に走り込むだけだったのである。モクモクじゃダメなんだよ工藤。こんな血行の滞ったチームでは何かを表現しないと FW は印象点が下がるだけだろう。プレイへの関与が少なく評価のしようがない後期の彼の、出場機会は減っていった。



シーズンを通じて「工藤は決定力がない」と日本のファンには信じられないような評価が付いたのだが、シーズン最後の出番となったサンノゼ戦で GK に止められた2つの決定機(1'50 と 2'50)が、工藤の今シーズンのプレイを表している。どちらも偶発的なチャンスで、打つしかないタイミングで打つも止められたシーン。MLS の GK はリーチが長く反応がよく、手が届く範囲のショットはホッケーのゴーリーのように確実に弾く。

こういうのを決められなかったことで工藤は批判されていた。たしかにどちらももっと強く低く打てたら入っただろうが、DF に囲まれ動きは限られ、他にやりようがないようにも見える。何よりもチャンスが消える前に打つしかないので、工藤は GK のタイミングを外せない。こういう GK 有利のハーフチャンスが、工藤たちホワイトキャップスのストライカー陣が得ていた決定機なわけです。決められたら偉いが、決められなくてもまあ普通そうだろうなと思うようなハーフチャンスが1試合に数回やってくるだけ。工藤がゴールに向かいながら体重を乗せてフルパワーで打てたシーンは記憶にない。結果として FW 全員シーズン通算2点となったわけである。

【追記】議論の一環で俺が「キャップスはフィードの質が低い」と書くと、「実際枠内シュート数はリーグ最多だけど?」という反論が返ってきた。いやそれで点が取れてないんだから、つまり GK が止められるシュートしか打ててないという統計ではないか。しかしかように数は打てているから、監督は「チャンスは作れている、あとはフィニッシュの精度だ」という選手の技量に結果を丸投げする言い訳をできる。その監督を批判する声もない。ホワイトキャップス周辺全体に、「得点力はストライカーの力次第、決められない安い ST しか買わないフロントが悪い」という馬鹿げたストライカー観がある。

こういうハーフチャンスだけで判断されては FW は苦しいだろうが、それをどうにかねじ込んでいれば工藤に流れがきたかもしれない。それがサッカー物理的に可能だったかどうかは、打った本人に聞いてみないとわからない。

工藤も秋ごろには待っていても状況は変わらぬと悟り、「ボックス内にいてもボールは来ないので自分で下がってゲームを作ったり、ドリブルに挑戦したい」とインタビューで語っていたのだが、その後 MLS での先発は2試合しかなく顕著な変化を見せることはできなかった。

 ③工藤の去就


ホワイトキャップスは最終戦、ライバル・ポートランドを相手に手も足もバチバチ当たる火の出るようなプレス戦を仕掛け、4点を取って数カ月ぶりの勝利を得、8位に上がりシーズンを終えた。こうしてインテンシティ勝負で敵を殲滅するのがやはりこのチームの原点なのだろうと思うような快勝にスタジアムが湧く中、工藤の出番はなかった。このようなにホッケー的攻防になると、フィジカルで秀でたところのない工藤は出ても置いて行かれるだろうというのは予想がつく。プレミア時代の中田英寿がそうだった。




3ヶ月外れ続けたが最終戦で見事ハマったこのフィジカルなサッカー、多人数で直球勝負をかけて攻め先制点をもぎ取ればよし、先に失点をするとダメというのがロボ監督のサッカーの基本なのだろう。熱血漢の彼はファンに愛されており、その戦術への批判は驚くほど少ない。

司令塔モラレスの退団は決まっており、FW へより良いボールを届けられる優秀な AMF がくるかもしれない。しかしロングパス好きはチーム全体のクセであり、ウェールズの守備的 MF 出身の闘将タイプであるロボ監督自身が、FW に入るボールの質には拘っていないという印象を俺は受けている。『中盤をビルドアップしてボールを運び、ストライカーにいいボールを届けよう』と考えているようには見えないのだ。無駄なアーリークロスは一向に減らさず、ボックス内で待ち受ける FW を無視してミドルシュートを打つ AMF たちが指導されることもなかった。FW の仕事を助けるための戦術的努力は何もなされていない。

ストライカーに点を取ってほしいなら、前に運べないモラレスとパスを出せないメスキーダを外し、どちらもできるボラニョス(コスタリカ代表の名手)をトップ下に置けばいいのだ。実際一度だけボラニョスを試し完璧に機能し彼からボックス内へのスルー連発になったのだが、よりにもよってロボ監督はその試合で工藤を出さずシュート下手なハータードを90分出し負けた。この試合を見て俺は、この監督はやはり工藤のことがわかってないのだと思いました。

ホワイトキャップスのファンは「このチームにはもう何年も点を取れる真のストライカーがいない」とぼやくのだが、他のチームの FW は技術を発揮できる状況を作ってもらっており、キャップス FW にはそれがないというだけの話である。これは大スランプの後期に限ったことではなく、得点不足に苦しみ移籍した前エース・リベーロの時代からこのチームの FW は、攻撃意図を読まれて速筋勝負のしんどいデュエルだけをやらされている。何年もストライカーが満足に点を取ってないならそれがロボのサッカーなのだ。俺はこうしたことをツイートし英語記事 (Gambare Kudo) まで書いて工藤に代わりアピールしたが(メディアの何人かは読んでくれた)、彼の助けになるわけもなかった。

 ロボ監督は 2020 年まで変わらず、チームの強みはフィジカル/インテンシティ勝負にある。そして今期の成績低迷を受け、年棒億級の「大物ストライカー」を取るとオーナーは約束している。来季ホワイトキャップスで工藤が置かれる状況がよくなるのは期待しにくいというのが衆目の一致するところで、メディアは工藤の契約継続を疑問視している。



Jリーグで一流の実績を持つ彼が「MLS では通用しなかった」とされるのは悔しいことだしフェアだとは思わないが、これは事故の怪我で失った2ヵ月のせいでもあるわけで、明らかに持ち味と合わない速筋ホワイトキャップスに固執せず次へ行くのが最善だろうと考える。来年も契約は残っているそうだが、「もし他のチームからオファーが来たら移籍も考える」と工藤は直近の日本語インタビューで答えている。


他の MLS チームに行きJストライカーの力を示してくれたらうれしい。どこのチームでもホワイトキャップスよりはボールをつなぎ FW に良いボールを供給している。しかし MLS に目が慣れた俺が今Jリーグを見ると、やはりパスと組み立ての質が高く MLS より面白いと感じるのだMLS の選手の能力はJよりも高いが、崩しの意外性はまるで及ばず直球勝負ばっかなんである。意外性こそ工藤の最大の持ち味であり、MLS のどのチームに行っても柏時代ほど工藤の能力が活きることはやはりないだろう。

ならば。Jリーグも巨額スポンサーマネーで改革が訪れるそうだし。欧州ビッグスターも来てJ創設期以来の大フィーバーが巻き起こるやもしれず。工藤は柏に戻ってタナジュンとともにレイソル黄金期を取り戻すもよし! 「柏から世界に!」っていって出て行った連中はみな帰ったし(笑)!

私はそう思います。現場からは以上です。◆

P.S. あ、柏から世界にの酒井はまだドイツで頑張ってたか、ごめん :-)

おまけ。工藤のホワイトキャップス・ベストマッチ、オーランド戦。





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2016/10/22

レンズ明るい XZ-2

『今週は嵐が連続でやってくるのでくれぐれも注意を』」と市から通達が届き、ろうそく・充電池・ランプにラジオと万全の支度をしておいたのだが、ありがたいことに進路がそれてくれ、雨と風が少々きつい程度で済んだ。バンクーバーアイランドの方はかなりのハードヒットだったらしいが。



いやはや助かったと外を眺めていると横に猫が。「いやー私も心配しました。大山鳴動ネズミ一匹というやつですな」。うるさいよ(笑)。


(左)PEN+SIGMA 30mm (右)XZ-2
この写真はとっさに撮ったのでフォーカスが猫に来なかった失敗写真だが、実は愛用マイクロフォーサーズ・オリンパス PEN E-PM1 ではなく新しいカメラで撮っている。オリンパスの高級コンパクトカメラ、XZ-2 という。

実は夏に PEN の標準ズーム MZ14-42mm が壊れてしまい困っていたのだ。19mm と 30mm の単焦点2本はあるが、やっぱり近くから遠くまで撮れる標準ズームの不在は痛い。

カナダでは中古のレンズなど手に入らず、レンズ付きの本体を中古でもう1台買うより他に MZ を手に入れる方法はない。同じカメラを2台買うのは馬鹿げているので型の新しい E-PM2 に移行すべきかとも考えたが、これが品薄で高い。まいったなあ…と探しているときに、XZ-2 が中古で売りに出たのだ。マイクロ本体をもう1台買ってもゲイン(得られるもの)はないが、このコンパクトを買うとこれまで撮れなかったものが撮れる。これだ! となったわけです。





 このカメラはレンズがすごい。28mm~112mm で F1.8~F2.5F1.8 といえば M4/3 標準ズームの 3.78 倍の明るさである(だと思う)。M4/3 では暗くて撮れない場所で写真が撮れる。夜目にも美しい寝室の棚の RZ250。そしてこの猫のヒゲを見れば、解像力は M4/3 の標準ズームを上回っているのがわかる。描写の線の細さは俺が持つ単焦点の SIGMA 19mm F2.8 のレベルにある。すごい。




図書館のウクレレセッションでは 1/80s でらくらくと、向かいで歌うリーダーの表情まできっちり解像している。レンズが明るいのでコンパクトでも背景のボケが得られる。室内ではもう PEN に完勝なわけ。

こういう明るいズームレンズを安価に作れないのが一眼の謎なところで、オリ 12-40mm F2.8 は定価千ドルを超えるし、F1.8 なんてレベルの明るさのズームは存在しない。他のフォーマットは知らないが当然もっと高いだろう。センサーが大きければ大きいほど、よいレンズが安価には作れないらしいのだ。



 車での移動中、信号待ちで窓越しに景色を撮ることが多いのだが、このレンズの解像力と PEN 標準ズーム(換算 84mm)よりもう1段長い 112mm の望遠力ははっとする感じをよく捉えてくれる。拡大すると遠景の建物の窓や鳥たちがちゃんと写っている。



コンパクトカメラはまたどういう理由かマクロも強く、望遠端で近距離の草花を撮るとこんな絵が出ちゃう。うわ。このレンズがついてこの画質が手に入るので、M4/3 を使う理由がかなり薄まってしまった。手持ちの M4/3 SIGMA の 30mm F2.8 は同社 19mm よりもさらに良い素晴らしいレンズなので、気合を入れて撮り比べれば PEN+SIGMA 30mm が勝つが、画角自在のズームでこのクオリティの写真が撮れてしまうと、やっぱり便利さで圧勝なわけ。




というわけで、M4/3標準ズームが壊れて困った分を補ってあまりある、新カメラなのであります。

弱点は動画を撮るとオートフォーカス音がカタカタうるさくて実用にならないこと。マニュアルフォーカスにして撮るしかない。まあ動画はおまけ機能か。◆